カミングアウト

ここは、シレジアのセイレーン城。その中の一室。
部屋の主はアイラ。

その部屋の中に部屋の主人ではない者が窓に腰掛け、月明かりに照らされている。
少年というにはしっかりしているが、青年というにはまだまだ線の細い、成長過程の一時期にだけ見られるアンバランスな肢体が浮かんでいる。
窓から流れる風が月明かりに照らされた金の髪を時折揺さぶる。

鍵を開ける音。ドアの開く音に、顔をあげる。

入ってきたものは部屋の主人であり、長い黒髪の整った顔立ちをしており、見るものが見れば、イザークの出身だということが一目でわかる。

部屋の中にいる者の顔を呆れ顔で見つめる。
「鍵はかけたはずだったが。」

「うん。かかってたよ。」
いいたいことがわかっていながらも、言葉どおりに答える。

「そういう意味ではないのだが。」
そう言いながらも、何を言ってもムダだな。と諦める。

「だって、鍵って他人の進入を防ぐためのものでしょ?」
「だったら他人じゃないから必要ないよね?」
あえて、自分の考えだけを語る。

「ぷっっ…そういうものか?」
らしすぎる返答に思わず吹き出す。

「ヨソはどうでも、ウチはそうなの。」
「それにオイラは盗賊だしね。」

「鍵開けはお手の物ってことか。」

「そういうこと。」

「…ふふっ」
「…あははっ」

二人だけにわかる会話を楽しんで、飽きることなく二人の時間を過ごした。



……………幕間……………


冬には雪が降り積もるシレジアの夜は深く寒い。
二人はベッドの中でお互いの体温を感じながらとめどなく話を続ける。

「そういえばさ、アイラってばまた告白されたらしいね?」

「うっ!な、なんで知ってる!?だ、誰からそれを聞いたのだ!?」

「ラケシスさんから。そんだけ慌てるってことはホントなんだ?」

「ラケシスか。誰にも言うなといったのに…」

「ラケシスさんのせいじゃないよ。んで、相手は?」

「…ホリンだ。…も、もちろん断ったぞ!」

「ホリンさんね。勇者の剣とかもらってるし危ないなぁ。」
「恥ずかしいのは聞いたけど、もうウチらの関係さ、オープンにしない?」

「ダ、ダメだ!ダメだ!」

「なんでさ?女性陣と彼女持ちは知ってるんだから…独身男性にも悪いしさ。」
本心はオープンで一緒にいたいことと、独身男性陣から余計なちょっかいを出されたくないからだが、おくびにも出さずにしれっと言う。

「そ、そうなのか!?みんな知ってるのか!?」

「気付かれないわけないよ…」
本気でそう思っていることがわかるだけに、ため息を吐きつつも、かわいいなぁとか思ったりする。ふいにいじわるしたくなって…

「外では「さん」を付けなきゃいけないのも大変なんだよ…」
「それにさ、オープンにしなきゃ外でキスもできないしさ。」
…とか言ってみる。

「な、何を言うんだ!?」

思い通りの反応をしてくれるのを、またかわいいなぁとか思ったりする。

「しかし、言う通りかもしれないな…」

この言葉を最後に考え込んでしまい、いくら呼びかけても返事がなくなった。



……………後日……………


アイラがアレクに呼び出されたことを、ラケシスから聞いたデューが呼び出しの場所にかけつけると、口説こうとしている真っ最中であった。

「アイラ!!」
慌てていたため、二人きりではないのに呼び捨てにしてしまった。

「デュー。ちょっとあっち行っててくれないかな?お兄さんとアイラは今ね、大人の話をしているんだよ。」
アレクはデューを遠くへ追いやろうとするが、デューは行こうとせず、むしろアレクとアイラの間に立ちふさがった。

「デュー。お兄さんの言うことが聞けないのかな?」
聞き分けのない子どものようだと苛立つアレクが声に凄みを利かせた。

その声をきっかけに…

今まで固まっていたアイラが、いきなりデューの肩をつかみ、自分の方に向きを変えさせて…


キスをした。


誰も口を挟むことができない、一瞬のうちに。

……………………

「アレク、悪いがこういうことなんだ。」


この一言の後、目の前の事態についていけず固まったままのアレクを残して、デューを引っ張って歩いていった。


引きずられていったデューが気をしっかりと取り戻してから………


「恥ずかしいからってオープンにさせてくれなかったのに…あれは恥ずかしすぎない?」

「言うな!人前であんなことを…」
「でも、デューがバカにされたと感じたら、そう思ったら止まらなかったのだ!!」

「ふーーーーん…」
「じゃあ、アイラがキレたことだし、これからカミングアウトしにいこうか?」

「えっ!?な、なに…?」
はっ。と気がつく…
「ま、待てーーー!!」

「ダメ!あれ、嬉しかったし、もっとやりたい!!」
聞く耳持たないといったデュー。

「ちょっと待ってって!それはダメぇぇ!!!!」

アイラの絶叫が辺りに一面に響いた。



二人の仲はその日のうちに部隊のすべてに知れ渡ることとなる。
ただ、何度も繰り返された行為の二度目からは、デューから行われたという違いがあった。


そういえば…

石になったアレク。
彼に彼女ができることはないらしい…


END

 by 高屋 様
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=koyakan

↓邑瀬コメント↓
 「キス」を二人の仲を教える為にやっちゃうとは・・・意外でした(笑)
で、「それはダメぇぇ!!!!」と叫ぶアイラさんがツボです。
普段は凛とした女性が慌てる姿って好き。それが惚れた男の所為だと尚更vv
それにしてもアレクって、哀れな姿が似合いますね・・・ゴメン、アレク(笑)