無題
 
 昨日の戦闘から一夜明けて。アイラは剣を持って城下へと出た。
 戦闘でぼろぼろになった剣を修復して、そのあと闘技場へでかけるのもいい。
 そんな事をかんがえながら。

 武器屋などが並ぶ通りに差し掛かるころ。アイラは前方から駆け足でやってくる人物のために足を止めた。
「アイラさーん」
 この人ごみで片手をぶんぶん振り回し、勢い良く走っているのに、誰にもぶつからないのは流石と言うか。
 足を止めたのは、絶対にぶつかるだろうという危機感からだ。
 そう思う間にアイラの元まで来たデューは、振っていた手の反対、右手を勢い良くアイラの前に差し出した。
「はい、これ」
 目の前に差し出されたのは、一輪の薔薇。
「なんだ、これは」
 面食らったアイラにデューはにっこり笑った。
「アイラさんに、どうぞ。昨日、助けてもらったお礼だよ」
「・・・・・・」
「大丈夫だよ!!盗ってないから!」
 アイラの冷徹な視線に慌てて言い添えた。

 盗ってないなら・・・

 大したことをしたわけじゃないんだが。
 心の中で呟きながら、アイラはデューから花を受け取った。
「ありがとう」
「気に入ってもらえて良かった〜。アイラさんに似合いそうなのを必死で探したんだ」
「デュー、もしこの後時間があるなら。しばらく歩かないか?」
「今日、おいらずっと暇!」
 そう答えたデューに、笑みを漏らした。



 しばらく後、デューがアイラの心を射止めたという情報が勢い良く軍を駆け巡った。
 興味津々、でも控えめにアイラに心のうちを聞いたエスリンにアイラはこう答えたと言う。

「花をもらったのは、生まれて初めてだったんだ。皆、私が興味ないだろうと思って、より実用的な剣のような武器を贈るのに。あいつがくれたのは、花だったんだ。 それがとても嬉しくて・・・」

 気丈なアイラが少し赤くなりながら微笑んだ姿を見て、エスリンは彼女がとても可愛いと思った。


END



屋根裏工房