【夏が来れば思い出すこと】(仮題)
 
     夏。夏と言えば何を思い出すであろうか。
 山。天の川。すいか?
 彼等が夏の思いで作りに選んだのは海である。
 青い海原。白い砂浜。どこまでも広がる空。サンサンと照り付ける太陽の下、絶好の海水浴日和である。
「きゃー!きっもちいー」
 シルヴィアが歓声を上げ、パシャパシャと海に入っていく。
「ホント。最高!」
「日焼け止めも塗ったし、遊ぶわよ!!」
 エスリンとラケシスが走ってシルヴィアの後を追う。それをエーディンが楽しそうに見送り、隣でフュリーがクスクス笑った。アイラとブリキッドは浜辺で日光浴。遅れてきたティルテュは、慌てて走ってくる。
 彼女たちの様子を眺めながら男性陣は御満悦の表情でうなずき合っている。
「やっぱ、夏は海だよな〜」
「何がいいって、水着がな」
 本音で呟くアレクにクロードがたしなめるように咳払いをした。
「あ。言っくけど、見るだけだからね!」
 最近ティルテュと恋人になったアゼルが真顔で注意を促す。それに適当に相槌を打ち、アレクはホリンに目を向けた。
「ホリンはアイラ狙いだろ」
 からかうような言葉にホリンは不思議そうにアレクを見て、嘲笑するように、しかし哀れみを含めてふっと笑った。
「確かに以前まではな」
「今は?」
 当たり前と言えば当たり前の疑問に返答を返したのはレックスだった。
「知らないのか!?アイラにはもう相手がいるんだぞ」
「「なにーー!!!」」
 その場にいた全員が目を丸くする。
「誰だ!?」
「そんな素振りはなかったぞ」
「知らなかったな〜」
 口々に言う彼等にホリンは無言でアイラのいる方を指さした。
「あ〜!アイラさんと姐御発見♪」
「デュー、いいとこに来た。悪いがオイルを塗ってくれないか?」
 そう言って瓶を差し出すアイラにデューはちょっと首を傾げた。
「アイラさん、焼くの?」
「ああ。その方が強く見えるしな。デューは反対か?」
「ん〜。オイラは白い方のアイラさんが綺麗で好きだな。もちろん日焼けしたアイラさんも綺麗だろうけど」
 臆面もなく言ってのけるデューにアイラの隣にいたブリギットが呆れたように溜め息をつき、会話を聞いていた男性陣はポカンとして大口をあけている。その表情は呆れているというより、何がどうなっているのか展開についていけないと言う顔だ。
「本当に知らなかったとはな」
「ホリンは知ってたのか!?」
 食ってかかるアーダンにホリンは大きくうなずく。ホリンはよく知っていた。クラスチェンジを早々と済ませたデューはいつもアイラの側にいた。アイラもデューを頼りにしているところがあったし、ホリンもデューの出現は意外だったが、まさかそのままゴールインするとは…。
 男性陣が悶々と悩むうちにも二人の会話は進んでいく。
「でもデュー。夏はやはり小麦色の肌がいいだろう」
「誰が言ったのさ」
「お前だ」
 ムッとしたようにおざなりな言葉を返すアイラにデューは驚いたように目を見開いた。
「夏らしいもの、と聞かれてブリギットに海と答えただろう。夏だから肌を焼くのがいいと」
「ああ」とデューは手を打ち、けらけらと笑った。
「あれはオイラ自身のことだよ。オイラ、アイラさんに全然合わない子供だから、少しでも男らしくなりたいな、と思ったんだ」
 屈託なく言うデューにアイラは顔を赤く染めた。一方のデューは自分の言葉がどれほどの効果をもたらすのか全くわかってないらしく、きょとんとしている。
「恥ずかしいヤツだな」
 ブリギットに言われても首を傾げている。
「デュー!」
 急にアイラが声を張り上げた。びっくりする周囲を放って彼女は押し付けたサンオイルの瓶をデューから奪い取ると彼の手を引いてシートの上に引き倒した。
「えっ!?何??」
 急な展開に慌てるデューにアイラは
「塗ってやる」
 小さく呟く。
「え?」
 聞き取れなくて聞き返すと、茹で蛸状態のアイラが怒鳴った。
「私が塗ってやると言っている!!」
 およそ恋人同士の甘さにほど遠い言動にブリギットは天を仰いだが、デューは嬉しそうに笑った。
「うん。ありがと、アイラさん♪」

   その後のことは記述するまでもない。
 楽しい一時を過ごした者。呆れ果てて立ち去る者。哀れにも風化し始めた者など様々であったが、大概の者にとって楽しい海水浴であったと言える。
「ざけんなぁ!オレはなんでいつも一人者なんだぁ。ノイッシュだって彼女いんのにぃ」
―――彼女にする子いないし。アーダンも一人だし。
「一緒か!?」
―――使えない、という点で。
「…旅に出てきます。探さないで下さい」
―――………。



END