無題
 
それはいつとは言えない語語の夕暮れ・・・
戦場という世界からほんの一時だけ・・・離れた平和なとき・・・
そんな大事な時・・・生きてると実感できる時・・・

「アイラ〜、アイラ何処〜」
一人の金髪の少年が一人で城の裏にある草原を駈けてくる。
そこは見渡す限りが草原だった。
少年は見渡せる範囲にいないとは分かっていながらも探してる相手の名前を叫ぶ
「何処?何処なの〜」
少し息切れ状態になっているようだが疲れなど気にせず走る。
草原が終わりを迎え様とする時、少年の耳に気合の入った声が入る。
「はっはっ!やぁっ!!はっはっはぁー!せやぁー」
少年は聞き間違いのないことを確認すると声の聞こえる方向へと走る。
しばらくして、そこには声の主が大きな棒を振っていた。
いつみても綺麗な黒髪、するどさと同時に感じる暖かい目、
そして鎧を身にまとっても隠せぬスタイルの良さ・・・
「何を見てるんだ?金髪の坊ちゃま」
「うん、アイラって凄く綺麗な体してるなと思って」
「ほぉ、ありがたいなデューにそう言って貰えるとは」
少年の目の前に丁度、胸がどアップで見えていた。
「わ、わわわ、ごめん、つい、綺麗だなと思って、み、みと、みとれてたんだ」
少年は慌てて言葉を発しようとするが思うように言葉にならない。
「私の体はね」
その少女とも言える顔には優しさが含まれた笑顔があった。
「あ・・・」
少年は何度ども見た事があるはずの顔を見て赤くなる。
「かわいいなデューは」
そう言うと少女はデューの肩を両手でつかみ、自分に引き寄せようとする。
「え?えっえっ」
少年はアイラの腕から逃れようとするが所詮は職業が剣士と盗賊ということもあり
力負けし、アイラの胸元へと引き寄せられた。
アイラ・・・・
何十秒ぐらいの空間だったが、二人にはとても長い時間に感じられた。
そうして、アイラはデューを開放する。
「・・・」
デューに言葉はなかった。
「デューも盗賊とはいえ、シーフファイターになったんだ私と一緒に訓練するか?」
その言葉に思考が止まっていたデューの頭が再び動きだす。
「うん、教えて・・・アイラ」

「そうじゃない、こう構えるんだ」
アイラの厳しい指導が入る。
「う、うん」
「デューは私と同じで剣士の素質を持っているからな、私の剣を教える」
「うん、絶対に覚えるよ」
真剣なまなざしでアイラを見つめるデュー
「よし、その意気だデュー、これでお揃いの構えだな」
「えっ?お揃い?」 「そうだ、ペアルックというのは私でも恥ずかしいがペアファイターだな」
普通に教えて貰うというのは大喜びのデューだったが、そう言われるとつい意識してしまう。
「・・・」
「どうしたデュー剣が動いてないぞ、疲れたのか?少し私と休むか?」
すこし顔が赤くなっていたデューはその言葉で更に顔の赤みが増す。
「じゃぁ、少し休むか・・・」
アイラはそういうとデューの手を取って草原へと戻った。

「デューも寝転がらないか?」
ほら速くといわんばかりにデューの手を掴み自分の隣に寝転がらせる。
「あわわわ、待ってこけちゃ・・」
全部言い終わらないうちにデューの体は寝転がっていたアイラの硬い鎧を身にまとった体の方へと落ちる
自然と二人は抱き合う形になってしまった。
アイラの体から汗の匂いがする・・・しかし、デューにとってこの匂いは嫌いではなかった。
自然とデューは硬い鎧の上で眠りへと落ちていった。

「アイラさぁ〜ん・・・ムニャムニュッ・・・」
「フフ可愛いな・・」
そういうとアイラは寝ているデューのほっぺを軽く指先でつかむとそれを引っ張る。
「ハヒハ〜、ホンハホトヒャヘヘ〜」
「まったく、寝言でもこんなに喋るなんて・・デューはデューか・・・」
そういうと黙ってデューを見つめた。
青い空、白い雲そして黄色の太陽、空はまさに晴れだった。
城から離れたこの草原で、たった二人・・・
いつもこうだった。いつもデューという存在が近くにいた。
たった一人で何十人と相手して戦ってその敵がいなくなったとき
私は常に一人だった。
すべてが終わったとき・・・
いつからだろう・・・私の前に後ろにそして横にこの黄色の服につつまれた金髪の少年がいたのは
孤独に始まり孤独に終わる・・・そんな日々の繰り返しの中、彼は無邪気に微笑みをくれた。
戦場は全て孤独の世界だと思っていた私に光を与えてくれた。
「そんな微笑も今は健やかな寝顔だが・・・」
そしてアイラは自分の両手を自分の胸で寝ているデューの背中に手を置いた。
明日には危ないかもしれない自分、私の命に変えてもデューの命は守る・・・
「それはオイラのセリフだよ」
慌てて自分が抱いている少年をみた。
「起きていたのか?」
「うんん、今起きたとこなんだ」
「アイラ、声に出してたよ」
そういうと少年はクスッと笑った
それを聞いて少しアイラは赤くなった。
「ところで、どんな夢みてたんだ?」
そういった瞬間でデューは顔が赤くなる。
「えっ?え〜〜と・・・」
「フーン、私にも言えないことか」
「あう、ううう」
「ま、いっか」
そういうとアイラはデューから手を離す。
そうして、再び今度は強くデューを抱きしめた。
「明日からまた戦争だ」
その言葉に少年はうなずく。
「うん」
「いよいよ、王都が近づいた」
少年はじっと少女に抱かれたまま、少女の話を聞く。
「生きよう・・・そして、それが終わったら・・・」
その言葉の途中でデューはアイラの口を両手で塞いだ。
「ずるいよ・・・アイラ・・それはオイラの言葉だよ」
わざとらしく困った顔をする少年。
「フフフッ・・・知ってるかデュー?王族ってのはダンスがたしなみの一貫に入ってるんだぞ」
「えっ?そうなの?オイラ知らなかった・・ダンスってシルヴィアが踊ってるような?」
アイラはデューを抱えたままその場で立つとまず軽く一人で踊りだす。
「ダンスって足のステップを覚えればかなり様になるんだぞ」
そこには右手を伸ばし左手を胸の位置まで持っていき、足でステップを踏んでいるアイラがいた。
「さぁ、デューも私の通りにして」
意外と器用なデューは言われた通りアイラの真似をする。しかし離れている位置で
「確かに合ってはいるけど、違うぞ」
そういうとデューが真似している所にアイラが近づき
「右手は右手、左手は左手その手同士を合わせるんだ・・・この状態でステップをする」
「あわわ、ちょっとまってアイラ、えっ?えっ?難しいよ」
「慌てるデュー発見」
そういうとアイラは爽やかな笑顔をデューに向けた。
「今日のアイラずるいよ」
「普段のお返しだな」
「ラーラララーララーラーーラララーーーー」
急にアイラは踊りながら歌いだした。
「その歌は?」
「う〜ん、覚えてないけど・・・昔誰かが教えてくれたんだ」
恥ずかしそうに言うとアイラは踊ったまま下を向く。
デューは嬉しそうに微笑みその笑みをアイラへと向ける。
「でもアイラは歌が上手いな」
「そんなことはない、アーダンの方が上手いしな」
「いや、エンジェルボイスだよ・・・」
「じゃぁ、デューはエンジェルの恋人だな」
本当にその言葉は恥ずかしかったらしくデューは真っ赤になっていた。
「ずるいよ・・アイラ・・・」
「フフフッ、デューの前では女だからな」
もっと赤くなるようなことを言う。
「むぅ」
「知らなかったのか?私は可愛い、そして綺麗な人にはいじわるなんだ」
「可愛いか・・・」
ポツリとデューがつぶやく
「そして愛しくて、その人が私にとって一番素敵な存在ならなおさらだ」
「やっぱりアイラはずるいよ・・・」
「当然だ・・・デューは今言った言葉全てに当てはまるのだから」
「オイラもアイラが一番だよ・・・」
デューの切ない目がアイラを捕らえる。
「一緒に生きよう・・・」
その言葉と同時に立ったままアイラはデューを両腕でギュッとつかんだ。
「うん・・・・・」

そして二人は戦場へ・・・


END