これからの道

 あたしって何でこんなとこにいるんだっけ?

 戦争が終わった後、キャスはふと疑問に思った。

ん〜と、確か盗みに入った時、あの馬鹿に話し掛けられて……あ、そうか、そのままずるずると付いて来ちゃったんだっけ?な〜んか本当、長かったなぁ。

 盗人の自分が、軍に所属している。別に気にしたことはなかったが、改めて考えると不思議だ。
 気付けば周りは皆、ばたばたしていた。この軍は意外と色んな国の人間が集まっている。皆が同じ場所に帰るわけではない為、準備も大変そうだ。軍をまとめていたロイに至っては、帰る準備以前に、やるべきことが沢山あるようで東奔西走している。
 お偉いさんってのは、税金を掠め取って遊んでいるのが常だってのに、本当にロイは馬鹿だ。まぁだからこそ自分もここにいるんだけど…と思いながら、キャスは己の荷物の確認をし始めた。




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 誰か連れがいるわけではない。いたこともあったが、そいつはすでに死んでしまっている。たいした荷物のないキャスの身支度は簡単に終わった。以前と違うのは、帯刀していることぐらいだろう。
「この剣…っていうか、これらの剣を使いこなせるようになるとは思わなかったわね」
 そう、持っている剣は一本ではない。三本あり、そのどれもが立派で、使いこなすには経験と実力が必要だと言われている。勿論金額もそれなりに高い。軍からの支給物だったが、キャスはロイ自身に掛け合ってちゃっかりと頂いていた。一本は護身用だが、残りの二本は換金用である。
「この剣二本とぉ〜、報奨金とぉ〜、掠め取っておいたこの青い宝玉があれば、けっこういい額になるわね。あたしってば偉い!!」
 トントン
 扉が叩かれる音に反応し、そちらを見る。
「おい、キャス、いるか?」
「…扉が開いてて、何でわざわざ扉を叩くのか―なんて、馬鹿なことは訊かないわ。だけど私の姿が見えてるのに、何で『いるか?』なんて訊くのよ」
 扉の向こうにいるのはギースだった。いかにも『海賊です』という風体をしていて、品がない男だ。…殺されそうだから本人の前では口にしないが。
「何?何の用?あたし、あんたといるとろくなことがないから嫌なんだけど」
 如何にも『嫌だ』という顔をしてみせる。
「お前、俺の船に乗らないか?」
 ―――効果はなかった。
 ―――って、ん?
「はぁ?何であたしがあんたの船に乗らなきゃなんないのよ!ぜ〜ったいっっお断りよ!!」
「まぁ落ち着いて聞けって。俺はでっかいお宝を探しに行く。お前が見たこともないお宝…いや、一生見ることのないようなお宝だ。興味ねぇか?」
「全くない!!」
 即答である。可能性の低そうな話に乗る気はない。
「じゃ、お前は俺に負けたままでいいんだな?」
「うっっっ、まっ負けてなんかないもん!私は成功したんだから!」
 実は、キャスは以前、ギースの財布を盗んでみせるという、勝手な勝負をこの男に挑んでいた。一応成功したのだが、……一応なのである。
「ま、俺がこの先金持ちになっても、お前がここでこの話に乗らないなら、お前には間抜けな不名誉が残るだけだ。それはそれで俺は構わないけどな。悪かったよ、興味ない話に誘ったりして。じゃ、元気でな」
 言うことは言ったといわんばかりに、ギースはそっけなく背中を向ける。
「待ちなさいよギース!!」
「どうした?気が変わったか?」
「ええもう、悔しいけど思いっきりね。あたしを船に誘ったこと、ぜぇ〜っったい!後悔させてやる!!そうよ、あんたが手に入れたお宝全部、この間みたいに盗んでやって、貧乏なあんたの横で豪遊してやって、それから…そう、あたしは今以上にものすっごい美人になって、おっさんになったあんたを惹きつけて振ってやるのよ!!どうよ?この完璧な計画!後悔したって遅いんだからね!!」
 しゃべりきった後、キャスは切れた息を整え、鼻で『ふふんっ』と笑った。
「……………」
「何?言い返す気力もない?」
「くっ」
「?」
「わっはっはっはっはっはっはっ…!!」
 ギースはそのハスキーボイスを軍全体に聞かせるかのごとく、大爆笑していた。
「あーもう!あんたってば本気でむかつく!!笑うな!静まれ!笑うな〜!!」
 キャスが止めようとするのが余計に可笑しく、ギースは暫く笑い続けていた。






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 出発の為、ギースとの待ち合わせ場所に行くと、そこには共に戦った仲間のエキドナとガレットの姿があった。
「あれ?二人も一緒に行くんだ?」
「ああ、私はギースにやってもらうことがあってね。ガレットの方はギースに雇ってもらうらしいよ」
 二人とも物好きだな…と、自分のことは棚に上げてキャスは思った。
「さて、旅の準備も整ったし、そろそろ行くか」
「ああ、なんだかギースが偉そうにしてるのがむかつくわ…」
「キャス、今何か言ったか?」
「別に!あんたが偉そうにしててむかつくって言っただけよ」
「お前って本当に口の減らない奴だな…あ、そうそう」
 いきなりキャスの首に腕を廻し、ずんずんと歩く。
「ちょっと!何よ、痛いじゃない!離しなさいよ!!」
 ギースは二人と距離が離れたことを確認し、なるべく聞かれないよう、キャスの耳元で話し始めた。
「お前が持ってたあの青い宝玉な、船の修理に使わせてもらうことになったからな」
「はぁ!?何でそれがあること知ってんのよ!?ってゆーか、人の物をなんだと思ってんのよ!」
「声でけぇよ。…別に船も乗れないってわけじゃねぇんだが、やっぱり修理しなきゃ不便なとこもあってな、お前さんも船に乗ることにしたわけだし…と。お前もついてくるって言ってくれて助かったよ」
「ちょっと、何よそれ!ふざけないでよ!!」
「ま、ロイにばらされるよりはいいと思ってだな」
「な…!!」
 キャスはすでに後悔していた。こんな男について行くことに。だからといって、一度は行くと決めたことを覆すことはプライドが許さなかった。
「さーて、出発するか!」
 後悔しても、もう遅い…。


END




あとがき


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