再会

 ある日のこと、祥瓊は陽子がどことなく機嫌が良いことに気がついた。
「陽子どうしたの?何かいいことでもあったの?」
卓子に茶器を広げながら声を掛ける。
王にも休憩は必要。公務の合間の茶の時間に、祥瓊はしばしば相伴に預かっていた。
隣に立つ鈴も同様である。
「あ、祥瓊もそう思った?絶対今日の陽子は何かあるよね」
こちら…鈴は茶菓子の用意をしている。
肝心の陽子は祥瓊に用意された茶を口に含み、ただ笑って『その内分かるよ』とだけ 言った。


 陽子に客が現れたという知らせは、それから半刻も経たないうちに来た。
女官に案内されて現れた者の姿は、子供の背丈ほどの、灰茶の毛色をしたネズミ。
そう。陽子がこの世界に来て、初めて得た友人・・・『楽俊』だった。
「楽俊久しぶり!卒業おめでとう!」
 数年ぶりの友人との再会。陽子は楽俊の姿を見たとたん駆け出し、その毛並みに顔 を埋めていた。
「よ・陽子ぉ…」
 楽俊はただ狼狽している。
「あはは、御免。頭では分かってるつもりなんだけど、この姿だとつい…」
 そう言いながらも、楽俊の背に回した腕は離れない。
「『つい』って、それもどうかと思うぞ」
「そりゃ、楽俊が嫌だと言うなら、もう二度と抱きついたりしないって誓うけど。  …嫌?」
「あのなぁ、嫌とかそういう問題じゃなくってな…」


 陽子の、一国の王の様子に唖然とする者二人。
『友人』だと聞いていた。だがこの再会の様子は…。
「私達、もしかしてお邪魔なのかな…」
「鈴もそう感じる?」
「うん・・・」
 しかし陽子と楽俊がいるのは出口の前。退出は叶わない。
せめて楽俊が少しでも早く私達の存在に気が付いてくれないものかと、ただただ二人 は願うばかりである。


END




あとがき


BACK